薬剤師が「ドーピング防止活動」に本格的に取り組むようになったのは、2003年の静岡国体からです。この国体から初めてドーピング検査が実施されました。それに伴い、静岡県体育協会スポーツ医科学委員会から「うっかりドーピングを防ぐには薬局のサポートが必要」ということで、静岡県薬剤師会に協力要請がありました。
ドーピングとは「選手が競技成績を上げる目的で薬物などを使用する不正行為」のことですが、故意に行われるものばかりではありません。いわゆる“うっかりドーピング”(禁止物質入りの市販薬やドリンク剤をそうとは知らずに服用してしまい、陽性反応が出ること)といわれるものがあり、これもドーピング違反とみなされ、記録抹消や競技大会への出場停止などの厳しい処分が下されます。 日本のドーピング違反のほとんどは“うっかりドーピング”で、薬の知識のない選手が体調を整えるために安易に市販薬やドリンク剤を服用することが、スポーツ界では大きな問題になっていたのです。
このような実情の中、“うっかりドーピング”を回避するために薬剤師とスポーツ界との協力体制が始まりました。
静岡国体以降、薬剤師はドーピング防止活動に深く関わるようになり、スポーツ界においても薬剤師の必要性が広く認められるところとなりました。
薬の専門知識がないスポーツ関係者や市販薬にあまり詳しくない医師がWADAの禁止表を頼りに薬物を選択し、“うっかりドーピング”から選手を守るのは、実はとても難しいことです。その点、薬学の基礎がある薬剤師は、少し勉強するだけで応用力を働かせてアドバイスをすることができるため、私たち薬剤師が関わることは非常に喜ばれます。
日本アンチ・ドーピング機構(JADA)では、このほど日本薬剤師会の協力を得て、ドーピング防止活動に従事する薬剤師「スポーツ・ファーマシスト」の認定制度を創設しましたが、これもスポーツ界の薬剤師に対する強い期待の現れであるといえるでしょう。
ちなみに、「スポーツ・ファーマシスト」のような認定制度は諸外国には類がなく、薬剤師会がドーピング防止活動に協力するのも世界的にめずらしいようです。それだけ日本の薬剤師は、スポーツ界との深いかかわりを築き始めているのです。
さて、ドーピング防止活動における薬剤師の役割とは何でしょうか。薬を必要とする選手に使用可能な薬を伝え、最良のコンディション作りをサポートするのは、薬剤師にしかできない重要な仕事です。
また、学校薬剤師と連携しながら、教育現場で求められる薬の知識の教育・啓発活動としてのドーピング防止活動も積極的に展開する必要があり、その活躍が期待されています。
ドーピング防止活動は、薬剤師ならではの専門性がいかんなく発揮できる仕事ですが、それは一つの出発点であり、「スポーツ・ファーマシスト」という新しい分野を切り拓いていくうえでは、ここだけに止まってはいけないと感じています。 健康志向が高まる中、運動不足を解消したり生活習慣病を防止するために中高年者を中心にジム通いする人が増えており、サプリメントや健康食品を愛用している人も少なくありません。そうした健康意識の高い人に対して運動と薬の観点から、薬剤師がアドバイスできることは、きっとたくさんあるはずです。将来的には、食事や栄養、サプリメントに関する知識も身につけ、スポーツを通じて健康に関する総合的なアドバイスができる薬剤師をめざしていきたいものです。とくに地域で活躍する薬局薬剤師には、その役割が強く求められているように思います。 このような面からみても、「スポーツ・ファーマシスト」の認定制度に積極的に参加してみてはいかがでしょう。